サイトM&A完全ガイド|価格基準・評価手法・法務/税務・実務フロー・失敗回避策

目次

1. サイトM&Aとは(定義と対象)

定義:既存ウェブサイト(ドメイン・コンテンツ・ソースコード・会員DB・広告/計測アカウント等)および当該サイトを核とする収益活動を、第三者へ移転する取引。
対象:メディア(広告/アフィリエイト)、EC、SaaS/サブスク、リード獲得サイト、コミュニティ等。

用語解説
サイト資産:ドメイン、コンテンツ、ロゴ/UI、コード、DB、運用マニュアル、広告・計測・EC基盤アカウント。
事業用資産:在庫、取引先契約、外注契約、雇用契約、商標/意匠/特許、ノウハウ。


2. スキーム選択(法務・税務の要諦)

2.1 代表的スキーム

  • 事業譲渡:売り手がサイト関連資産・契約を個別承継消費税課税対象(のれん含む)。買い手側はのれん税務償却(5年)で節税効果。第三者同意や名義変更の実務負荷が大きい。
  • 会社分割(吸収分割):サイト事業を一括承継。契約移転の実務効率は高いが、組織再編手続・公告等が必要。
  • 株式譲渡:会社ごと取得。消費税非課税。契約や許認可は原則維持され実務負荷は小。買い手はのれん税務償却不可(会計は非償却/減損テスト)。簿外リスクは会社と一体で承継。

判断軸

  1. 第三者同意が多いか(事業譲渡△/株式譲渡○)
  2. 税務最適(買い手は事業譲渡でのれん償却○、売り手は株式譲渡の譲渡益課税シンプル○)
  3. 簿外債務・法的リスクの切り分け(事業譲渡○/株式譲渡△)

用語解説
のれん:取得価額−識別可能純資産公正価値。税務上、事業譲渡なら5年均等償却可。
PPA:Purchase Price Allocation。取得原価を無形資産(商標、ソフト、顧客関係等)へ配分。


3. バリュエーション(評価の作法)

3.1 三層モデルで評価する

  1. ファンダメンタル(収益力):EBITDA/SDE、FCF、粗利構造、LTV/CAC、チャーン、ARPU、在庫回転。
  2. トラフィック品質:オーガニック比率、指名検索、被リンクの自然性、上位クエリの安定性、コンテンツ寿命、更新頻度。
  3. 無形資産価値:ブランド検索、会員/CRM資産、コード品質、データ資産、商標・著作権の完全性、運営ノウハウ。

3.2 代表的な査定レンジ(目安)

  • 広告/アフィリエイト型メディア:EBITDA 1.5〜3.5倍+ネット運転資本調整。季節性やコアクエリのリスクで±。
  • EC:EBITDA 2.5〜5.5倍。在庫・返品・広告依存度・プラットフォーム規約違反リスクで調整。
  • サブスク/SaaS:売上成長率とネットリテンション次第で3.0〜8.0倍(中小規模)。解約率と粗利で大きく変動。

実務ポイント
トラフィック調整:短期施策で膨らんだPVはノーマライズ。コアアルゴリズム変動(コアアップデート)感応度をシナリオ化。
収益調整:一過性案件、リスティングの一時増枠、タイアップ収益を除外して再現性EBITDAを算出。
マルチプル×DCFのハイブリッド:ベースはマルチプル、成長サイトは3〜5年のミニDCFで上振れ/下振れを検証。


4. デューデリジェンス(DD)チェックリスト

4.1 法務

  • 権利確認:著作権(外注記事、写真、動画、イラスト、コード)、商標、フォント、アイコン、テンプレート。譲渡許諾の範囲を契約書で確認。
  • 個人情報個人情報保護法適合。利用目的、共同利用、第三者提供、Cookie/広告IDの取扱い、越境移転の有無。プライバシーポリシーの承継条項。
  • 契約:ASP/アフィリエイト、広告枠、ツール、外注、倉庫/配送、決済。譲渡禁止条項チェンジオブコントロール要件。
  • レピュテーション:権利侵害クレーム、薬機・景表法・特商法違反歴。

4.2 税務・会計

  • 消費税(事業譲渡時の資産区分、のれん含む課税対象)、源泉、在庫評価。
  • PPA前提の無形資産識別と耐用年数設定。

4.3 ビジネス/テック

  • アナリティクス閲覧権限で生ログ検証(Bot除外、直帰/セッション品質、コホート推移)。
  • 被リンク監査:有償リンク・PBN痕跡、アンカーテキスト偏重。
  • コード・セキュリティ:脆弱性、依存ライブラリ、CSP、WAF、バックアップ体制。
  • 運用実体:編集/制作フロー、外注単価、SLA、運用マニュアルの有無。

5. 取引実務フロー(買い手/売り手)

  1. ティーザー/秘密保持契約(NDA)
  2. 一次資料(ダッシュボード動画、主要クエリ、収益内訳)
  3. LOI(価格レンジ・スキーム・独占期間・主要条件)
  4. DD(法務/税務/会計/ビジネス/テック)
  5. 最終契約(SPA/APA)表明保証(R&W)/補償(Indemnity)
  6. クロージング(資産引渡し、アカウント移管、請求/入金切替)
  7. PMI(運用引継、KPI管理、ABテスト計画)

表明保証例
・権利非侵害、データ正確性、ブラックハット未実施、重大バグ不存在、重大な規約違反なし。
補償設計:Cap(上限)、Basket(免責)、Survival(存続期間:12〜24か月目安)、サンドバッグ条項。


6. アカウント・データの安全な承継

  • 計測:GA4/タグ管理(読み取り→共同管理→完全移管)。生データのエクスポートと監査ログ保存。
  • 広告:Google/Meta/TikTok/各ASP。アカウント新旧マッピングと入金口座切替。
  • CRM/会員DB:同意記録、退会/削除要求対応、目的外利用NG
  • ドメイン:レジストラ移管コード、DNS TTL調整、SSL再発行計画。
  • サーバ:環境差異の吸収、デプロイ権限、脆弱性修補計画(90日)。

7. 税務の勘所(日本)

  • 株式譲渡:売り手は譲渡益課税(個人20%前後、法人実効税率30%台)。買い手は消費税負担なし。のれん税務償却不可。
  • 事業譲渡:買い手はのれん5年償却で節税。資産移転は消費税課税(土地等除く)。売り手は法人税/所得税課税。
  • 在庫/固定資産:評価差額、棚卸資産の消費税、減価償却の引継ぎ。

8. 価格調整・支払設計

  • ネットデット/運転資本調整:クロージング時点の現金・負債・在庫で精算。
  • アーンアウト:12〜24か月。KPI(売上/EBITDA/UU)連動。ブラックハット再開等の否認事由を明記。
  • エスクロー/ホールドバック:R&W補償の原資確保。

9. よくある失敗と回避策

  • 失敗事例1:PVは多いが無収益。→ コホート別収益・指名検索比率で質を評価。
  • 失敗事例2:権利未整理。→ 外注記事・画像・コードの著作権譲渡/許諾証跡を精査。
  • 失敗事例3:アカウント凍結。→ 広告/ASPの名義変更ルールを事前確認。
  • 失敗事例4:アルゴリズム変動で急落。→ リスクシナリオDCFと価格の条件付け(アーンアウト)。

10. 参考KPIベンチ(買い手初期スクリーニング)

  • 指名検索比率 > 25%
  • オーガニック比率 > 60%(広告依存はディスカウント)
  • 被リンク有償疑義 < 5%
  • LTV/CAC > 3.0、粗利率 > 60%(メディアは人件費控除前)
  • 主要クエリ上位維持期間 > 9か月


11. まとめ(実務チェックリスト)

  • スキーム:株式譲渡か事業譲渡か。税務効果とのれん償却を比較。
  • 価格:再現性EBITDA×適正マルチプル+DCFで整合確認。
  • 法務:著作権・商標・個人情報・契約同意・規約違反履歴の網羅。
  • データ:GA4・広告・CRMのアクセス権移管計画。
  • 支払:アーンアウト・エスクローで下振れ対策。
  • PMI:運用マニュアル・KPI監視・ABテストの90日計画。

12. FAQ(構造化データ用Q&A要約)

Q1:相場は?
A:メディア1.5〜3.5倍、EC2.5〜5.5倍、SaaS3〜8倍(いずれもEBITDA倍率の目安)。

Q2:どのスキームが有利?
A:リスク遮断と節税なら事業譲渡、簡便性とスピードなら株式譲渡。案件特性で最適化。

Q3:ブラックハット歴がある場合?
A:価格ディスカウント、アーンアウト条件、R&W強化、補償原資のホールドバックが必須。

Q4:個人情報の承継は?
A:利用目的・承継の告知/同意、共同利用の明示、越境移転の適法性確認。目的外利用は不可。


制作・実行支援

  • スキーム設計/税務シミュレーション
  • バリュエーション/PPA
  • DD(法務/税務/会計/テック/SEO)
  • 契約実務(SPA/APA、R&W、アーンアウト)
  • PMI(90日運用設計)
プライマリーアドバイザリー株式会社
M&A仲介業、M&Aアドバイザー、企業価値評価

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