製造業M&A事例:ニレコ<6863>、応用光研工業の子会社化と企業価値評価

目次

1. 取引概要

ニレコ株式会社は2025年10月17日の取締役会において、応用光研工業株式会社の全株式60,000株を8億2,200万円で取得し、完全子会社化することを決議した。関連費用約400万円を含め、総額8億2,600万円の取引となる。株式譲渡実行日は2025年10月30日を予定している。応用光研は1963年創業の老舗で、放射線測定機器や光学結晶の製造販売を主力とする。2025年3月期の売上高は13億7,100万円、営業利益4,300万円、純資産9億4,800万円。主要顧客には原子力発電所、大学、公的研究機関などが含まれ、高精度光学部品やシンチレータ結晶の技術力を持つ。

2. 財務実績(直近3期)

  • 売上高:12.48億円(2023/3期)→15.29億円(2024/3期)→13.71億円(2025/3期)
  • 営業利益:0.58億円 → 1.23億円 → 0.43億円
  • 純資産:8.7億円 → 9.32億円 → 9.48億円

3年間平均では売上高13.83億円、営業利益0.75億円。利益率は平均5.4%と低めである。


3. バリュエーション分析(3年平均値ベース)

(1) DCF法

  • 基礎NOPAT(税引後営業利益):0.75億円×(1−30%)=0.52億円
  • 仮定:売上成長率3%、割引率10%、ターミナル成長率1%、CapEx≒償却、ΔWC≒0
  • 算定結果:企業価値約6.38億円

(2) EBITDA法

償却費が未開示のため、売上高の2〜4%を償却費と仮定し営業利益に加算。

  • EBITDAレンジ:1.02〜1.30億円
  • 適用マルチプル:EV/EBITDA=6〜9倍(中堅製造業平均)
  • 算定結果:企業価値約6.97〜10.45億円(中央値9.29億円)

(3) 純資産法

純資産は9.48億円。これを基準にすれば8.26億円での取得はディスカウント買収にあたる。


4. 総合評価

  • DCF評価:6.38億円
  • EBITDA評価:6.97〜10.45億円
  • 純資産:9.48億円
  • 取得価額:8.26億円

結論として、営業利益水準のみで見れば割高に見えるが、純資産とDCFを考慮すると妥当。EBITDA法レンジ内にも収まり、資産に裏付けられた安定した案件といえる。


5. 戦略的意義

  1. 技術シナジー:応用光研の光学結晶技術とニレコの画像処理・オプティクス事業を統合することで高精度検査装置の開発を加速。
  2. 販路拡大:研究機関や原子力関連の顧客基盤を獲得し、新市場への展開が可能。
  3. 収益改善余地:低利益率体質を、ニレコの生産・販売体制を活用して改善。

6. 法務・会計・税務の留意点

  • 法務:放射線測定技術は輸出規制対象となる可能性があり、コンプライアンス確認が必須。
  • 会計:簿価純資産を下回る取得であるため「バーゲンパーチェス利益」が発生し、一時的に利益を押し上げる可能性がある。
  • 税務:株式取得は消費税非課税。バーゲンパーチェス利益は課税対象となる。

7. アドバイザリー費用

開示によればアドバイザリー費用は約400万円。取引規模比(0.5%)としては低水準であり、最低報酬ベースの取り扱いと考えられる。おそらく仲介会社を用いずに、取引先同士等のM&Aだと想定される。


8. 投資家への示唆

  • 短期的には営業利益水準の低さが課題。
  • 中期的には資産を伴う買収であり、シナジー創出次第で収益改善余地が大きい。
  • 取得価額はDCFおよびEBITDAレンジ内に収まり、財務リスクは限定的。

9. 結論

ニレコによる応用光研工業の子会社化は、「資産を伴う戦略的取得」であり、3年平均値に基づくDCF・EBITDA評価からも妥当な水準のM&Aと位置付けられる。将来の統合効果により利益率改善が実現すれば、企業価値の上振れが期待できる案件といえる。

プライマリーアドバイザリー株式会社
M&A仲介業、M&Aアドバイザー、企業価値評価

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