2026年2月27日、東証グロース市場に上場するフライヤー(証券コード:323A)が、Webデザインスクール「Find me!」を運営する株式会社Zealox(東京都港区)の株式70%を取得し、連結子会社化したことが公表されました。取得価額は3億5,000万円(株式譲渡対価)、取得関連費用等を含む総額は3億9,700万円です。
フライヤーといえば、ビジネス書の要約サービス「flier」で広く知られる企業ですが、近年は法人向け人材育成サービス「flier business」をエンタープライズ事業の主軸に据え、収益基盤の多角化を進めています。今回のZealox子会社化は、同社にとって上場後の本格的なM&A案件であり、急拡大するリスキリング(学び直し)市場への参入を加速させる一手として注目されます。
第1章|取引の概要
当事者の概要
【買い手】株式会社フライヤー(証券コード:323A/東証グロース市場)
フライヤーは、ビジネス書の要約サービス「flier」の開発・運営を主力事業とする企業です。「あらゆる『人』と『組織』が成長し、可能性がひらかれるプロダクトをつくる」というビジョンのもと、法人向け人材育成サービス「flier business」を中核としたエンタープライズ事業と、個人向けの自己研鑽サービスを提供するコンシューマ事業の二本柱で経営を推進しています。親会社は電子書籍取次大手のメディアドゥ(東証プライム/3678)であり、2025年2月に東証グロース市場へ新規上場を果たしました。
2026年2月期の通期業績予想は、売上高11億2,000万円(前期比18.1%増)、営業利益1億円を見込んでおり、前期に達成した通期黒字化を一段と拡大する計画です。第3四半期累計(2025年3月〜11月)では、売上高7億8,500万円、営業利益4,800万円、経常利益4,800万円、親会社株主に帰属する四半期純利益4,600万円と順調に推移しています。
【売り手(対象会社)】株式会社Zealox(東京都港区)
Zealoxは、女性向けオンラインWebデザインスクール「Find me!」の運営を主力事業とする企業です。2019年11月19日設立、資本金100万円、代表取締役は松村圭悟氏。創業以来、Webマーケティング力を強みとする少数精鋭の組織で、スクール事業とSNS運用事業の二つの事業を展開しています。
「Find me!」は2023年1月にサービスを開始し、完全オンラインのスクールとしてWebデザインからサイト制作、マーケティングまで58種類のスキルカリキュラムをマンツーマンで提供しています。経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の認定スクールとして、受講料最大70%還元の補助金制度にも対応しており、月額4,980円からという価格設定で受講者を着実に拡大してきました。
取引の概要
| 項目 | 内容 |
| 対象会社 | 株式会社Zealox(東京都港区虎ノ門4-1-1 神谷町トラストタワー23F) |
| 代表者 | 代表取締役 松村圭悟 |
| 設立 | 2019年11月19日 |
| 資本金 | 100万円 |
| 主な事業 | Webデザインスクール「Find me!」運営、SNS運用事業 |
| 取得株式比率 | 70%(連結子会社化) |
| 株式取得価額 | 3億5,000万円(350百万円) |
| 取得関連費用等を含む総額 | 3億9,700万円(397百万円) |
| 取得日 | 2026年2月27日 |
| スキーム | 株式譲受(相対取引) |
| 意思決定 | 2026年2月13日取締役会にて代表取締役に最終決定を一任 |
| バリュエーション手法 | 時価純資産法、DCF法、類似会社比較法(外部専門家によるDD実施済み) |
| 資金調達 | 金融機関からの借入(財務制限条項付き) |
| 連結への影響 | 2026年2月期末はB/S(貸借対照表)のみ連結。P/L(損益計算書)の連結は2027年2月期より開始 |
価格決定プロセスについて
開示資料によれば、本件の株式取得価額3億5,000万円は、「2025年10月期及び当該進行期の収益水準および今後の成長性」を踏まえて決定されたとされています。また、「外部専門家等による適切なデューデリジェンスを実施し、時価純資産法、DCF法及び類似会社比較法等を用いて算出した結果を参考に、妥当な価格を決定した」旨が記載されており、取締役会においても本件価格が公正かつ妥当であると判断されています。
デューデリジェンス(DD)とは、M&Aにおいて買い手が対象会社の財務・法務・事業等の実態を精査する調査手続きのことです。外部専門家(公認会計士、弁護士等)を起用して実施するのが一般的であり、本件でもこの手続きが適切に履践されていることが確認できます。
またバリュエーション手法として時価純資産法(ストック面からの評価)、DCF法(将来キャッシュフローの現在価値による評価)、類似会社比較法(マーケット・アプローチ)の3手法を併用している点は、上場企業のM&Aとして標準的かつ適切なプラクティスといえます。
財務制限条項(コベナンツ)について
フライヤーは本件の取得資金について財務制限条項(コベナンツ)付きの金銭消費貸借契約を締結しています。開示資料によれば、以下の2つの財務制限条件が付されています。
(1)契約締結日以降の決算期末における連結貸借対照表の純資産の部の金額を、前年同期比75%以上に維持すること
(2)契約締結日以降の決算期における連結損益計算書の経常損益を2期連続で損失としないこと
「コベナンツ」とは、金融機関が融資条件として借り手企業に課す財務上の制約条項のことです。これに抵触した場合、期限の利益を喪失し、借入金の一括返済を求められる可能性があります。上場間もない企業にとって、デットファイナンス(借入金による資金調達)でのM&A実行は、財務規律の観点から注視すべきポイントです。
対象会社の財務データ(2025年10月期)
| 項目 | 金額 |
| 売上高 | 3億400万円(304百万円) |
| 営業利益 | 2,720万円(27百万円)/営業利益率 8.9% |
| 純資産 | 2,910万円(29百万円) |
設立からわずか約6年、スクール事業開始から約3年で売上高3億円を超え、営業利益率8.9%を確保している点は、少人数のオンライン教育事業としては着実な実績といえます。一方で、純資産2,910万円という水準は薄く、成長投資に利益の大半を再投入してきた新興企業の特徴が表れています。
連結スケジュールに関する重要事項
開示資料には、「当社は当連結会計年度(2026年2月期)末において対象会社の貸借対照表(B/S)のみを連結し、損益計算書(P/L)の連結は翌連結会計年度(2027年2月期)より開始する」と記載されています。
これはM&Aの実務において重要な論点です。取得日が2026年2月27日と事業年度末(2月末)の直前であるため、今期のP/L(損益計算書)にはZealoxの業績が反映されず、B/S(貸借対照表)上でのれんや子会社株式等が認識されるにとどまります。したがって、本件買収による連結損益への実質的な影響が顕在化するのは、2027年2月期からとなります。投資家やアナリストの方は、この点にご留意いただく必要があります。
第2章|バリュエーション分析
ここからが本稿の中心です。本件の取得価額が果たして妥当なのか、3つの切り口で多角的に検証してまいります。
なお分析にあたっては、株式取得価額(株式譲渡対価)の3億5,000万円を基準に用います。取得関連費用等を含む総額3億9,700万円との差額約4,700万円は、アドバイザリー費用やデューデリジェンス費用等の取引コストと推定されます。企業のバリュエーション(価値評価)においては、株式そのものに支払われた対価を基準とするのが適切です。
暗示的な100%株主価値(インプライド・エクイティ・バリュー):
3億5,000万円 ÷ 70% = 5億円
この「インプライド・エクイティ・バリュー」とは、70%の取得価額から逆算した場合に、会社全体(100%)の株式にいくらの値段がついているのかを示す参考値です。マイノリティ・ディスカウント(少数株主割引)やコントロール・プレミアム(支配権プレミアム)の調整は加味していない単純除算ですが、バリュエーションの議論の出発点として有用です。
分析①|年買法(年倍法)によるバリュエーション
年買法(年倍法)とは、対象会社の「純資産+営業利益×〇年分」で株主価値を算定する日本の中小企業M&Aで広く用いられる簡便法です。純資産というストック(蓄積された財産価値)と、営業利益というフロー(将来の収益力)を組み合わせて企業価値を捉える考え方であり、中小企業庁のM&Aガイドラインでも言及されています。なお、本件では外部専門家により時価純資産法・DCF法・類似会社比較法が用いられていますが、読者の皆さまの理解を助けるために、より直感的な年買法でも検証を行います。
【計算】
100%ベースの株主価値:5億円
純資産:2,910万円
のれん相当額:5億円 − 2,910万円 = 4億7,090万円
営業利益:2,720万円
年買法の倍率:4億7,090万円 ÷ 2,720万円 = 約17.3年分
【評価】
中小企業M&Aの実務において、年買法の倍率は一般的に2〜5年分が標準的なレンジとされます。成長企業やIT企業であっても7〜10年分が上限の目安とされることが多く、約17.3年分という本件の倍率は、直近の利益水準を基準とする限り、かなり高い水準にあります。
この数字が意味するところは明確です。買い手であるフライヤーは、Zealoxの「現在の利益」ではなく、「将来の成長ポテンシャル」に対して大きなプレミアムを支払っているということです。開示資料でも「今後の成長性」が価格決定の考慮要素として明記されており、DCF法の結果が本件の価格形成に大きく寄与したことが推察されます。裏を返せば、Zealoxの営業利益が現在の年間2,720万円から大幅に成長しなければ、本件の投資回収は長期化することになります。
分析②|EV/EBITDA法によるバリュエーション
EV/EBITDAとは、企業価値(Enterprise Value)をEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)で割った指標です。減価償却費の影響を排除することで、異なる設備投資規模の企業間での比較が可能になります。上場企業のM&Aで最も頻繁に参照されるマルチプル(倍率)指標の一つであり、開示資料に記載されている「類似会社比較法」もこの指標を用いたものと推定されます。
Zealoxのような少人数のオンライン教育サービス企業は、大規模な有形固定資産を保有しないアセットライト型のビジネスモデルです。減価償却費は限定的と考えられるため、EBITDAは営業利益に近い数値になると推定されます。
【計算】
インプライド・エクイティ・バリュー(100%):5億円
有利子負債:非開示(資本金100万円のオンライン教育企業であり、大きな借入はないと推定)
現預金:非開示
EV(企業価値)≒ 株主価値 = 約5億円(ネットデットをゼロと仮定)
EBITDA ≒ 営業利益+推定減価償却費 = 2,720万円+約280万円 = 約3,000万円
EV/EBITDA = 約5億円 ÷ 約3,000万円 = 約16.7倍
(※有利子負債・現預金の詳細が非開示のため、ネットデットをゼロと仮定した簡便計算です。減価償却費は少人数のサービス企業として約280万円と推定しています。)
【評価】
国内の教育・研修サービス業界におけるM&AのEV/EBITDAは、一般的に8〜15倍程度が相場とされます。EdTech(教育テクノロジー)分野の成長企業であっても12〜18倍が高値ゾーンの目安となりますので、約16.7倍という本件の水準は、業界平均を上回る高評価に位置します。
この高倍率が正当化されるためには、以下のいずれかの条件が満たされる必要があります。
(a)Zealoxの売上高・利益が今後3〜5年で急成長し、実質的なEV/EBITDAが低下すること
(b)フライヤーとのシナジー効果(法人顧客基盤へのクロスセル、コンテンツ連携等)により、スタンドアロンでは実現できない利益の上乗せが見込めること
(c)リスキリング市場全体の急拡大により、市場の追い風で成長が加速すること
開示資料に「当該進行期の収益水準」という記載がある点も注目に値します。これは2025年10月期の実績値だけでなく、進行中の事業年度(2026年10月期見込み)の業績動向も価格に織り込まれていることを示唆しています。Zealoxの直近の事業成長率が高ければ、現時点の利益水準から計算した倍率よりも実態は割安である可能性もあります。
分析③|連結損益インパクト分析(当期純利益−のれん償却)
M&Aの財務的成否を判断するうえで、最も実務的に重要なのが「連結損益への影響」です。いくら戦略的に意義のあるM&Aでも、のれん償却負担が重く、連結ベースで赤字になるようでは、上場企業として株主への説明責任を果たすことが困難になります。
なお、前述のとおり本件ではP/L連結は2027年2月期からとなるため、以下の試算は2027年2月期以降に顕在化する影響です。日本基準(J-GAAP)に基づくのれん償却が連結営業利益にどのような影響を及ぼすかを試算します。
「のれん」とは、M&Aにおいて取得対価が被取得企業の純資産を超える部分を指し、ブランド力や人材、将来の収益力といった無形の価値を総称するものです。日本基準ではこののれんを一定期間(最長20年)で規則的に償却することが求められます。
【のれんの算出】
株式取得価額(70%分):3億5,000万円
取得した純資産持分(2,910万円 × 70%):2,037万円
のれん = 3億5,000万円 − 2,037万円 = 3億2,963万円
(※実際ののれん計算では、取得日時点の識別可能資産・負債の時価評価を行ったうえで差額として算定されます。上記はあくまで簡便的な試算です。)
【のれん年間償却額の試算】
| 償却期間 | 年間償却額 | 連結営業利益への影響 |
| 5年 | 約6,593万円 | ▲3,873万円(大幅減益) |
| 10年 | 約3,296万円 | ▲576万円(小幅減益) |
| 15年 | 約2,198万円 | +522万円(小幅増益) |
| 20年 | 約1,648万円 | +1,072万円(増益) |
(※連結営業利益への影響=Zealoxの営業利益2,720万円−のれん年間償却額)
【親会社株主に帰属する当期純利益への影響】
さらに踏み込んで、親会社株主に帰属する当期純利益への影響を試算します。連結上はZealoxの損益100%を取り込みますが、30%の非支配株主持分を控除する必要があります。
Zealoxの推定当期純利益(実効税率30%と仮定):2,720万円 ×(1−30%)≒ 約1,904万円
非支配株主への帰属分(30%):約571万円
親会社帰属分(のれん償却前):約1,333万円
(※のれん償却費は100%が親会社帰属。非支配株主には配分されません。)
| 償却期間 | のれん償却額 | 親会社帰属当期純利益への影響 |
| 10年 | 約3,296万円 | ▲1,963万円 |
| 15年 | 約2,198万円 | ▲865万円 |
| 20年 | 約1,648万円 | ▲315万円 |
【評価】
本件は、のれん償却期間をどのように設定しても、現状の利益水準では連結当期純利益に対してマイナスの影響(=EPS希薄化)が生じる構造です。連結営業利益ベースでは、15年以上の償却期間を設定すればプラス寄与となりますが、当期純利益ベースでは20年償却でもなお約315万円のマイナスが残ります。
フライヤーの2026年2月期の通期純利益予想は約9,860万円です。仮にのれん償却期間を10年に設定した場合、連結当期純利益が約2,000万円目減りする計算になりますので、利益への影響度は約20%に及びます。この点は、投資家として注意深く見るべきポイントでしょう。
ただし、これはあくまでZealoxの現状の利益水準を前提とした静的な分析です。Zealoxの事業が今後成長することにより、のれん償却負担を吸収して連結増益に転じる可能性は十分にあり得ます。開示資料で「今後の成長性」が価格決定の重要要素として言及されていることからも、フライヤー側はZealoxの利益成長シナリオを織り込んだうえで、この価格水準を妥当と判断したものと考えられます。
第3章|戦略的合理性の考察
フライヤーの戦略的意図
本件の高い取得倍率は、現時点の利益だけでは説明がつきません。開示資料に記載されたフライヤーの説明を踏まえると、以下のような戦略的ロジックが本件の背景にあると考えられます。
(1)「知識のインプット」から「スキルのアウトプット」への事業領域拡大
フライヤーは開示資料において、「既存サービスを通じて構築した法人顧客、特に人材育成部門との豊富なネットワークおよび個人会員網を活用し、より幅広く充実した人材育成・自己研鑽に資するサービス・プロダクトを提供していきたい」と述べています。現在の「flier business」はビジネス書の要約コンテンツによる「知識のインプット」が中心ですが、Zealoxの「Find me!」を取り込むことで、Webデザインという実践的な「スキルのアウトプット」を商品ラインナップに加えることができます。これは、法人向け人材育成サービスとしてのワンストップ提供を可能にする重要な事業拡充です。
(2)リスキリング市場への本格参入
経済産業省が「人への投資」として5年間で1兆円規模の支援を表明し、国内のリスキリング関連市場は急速に拡大しています。矢野経済研究所の調査では、国内の企業向け研修サービス市場は2024年度に約5,858億円に達し、eラーニング市場も4,000億円規模に拡大しています。フライヤーが本件を通じて実践的なデジタルスキル教育プログラムを獲得した判断は、この市場トレンドに合致するものです。
(3)法人顧客基盤へのクロスセル機会
フライヤーのエンタープライズ事業は、大手企業を含む法人顧客基盤を有しています。Zealoxの個人向けWebデザイン教育プログラムを、法人向けリスキリングメニューとしてパッケージ化し、既存法人顧客に提案するクロスセル戦略が想定されます。法人向けの場合、個人向けよりも高い単価設定が可能であり、収益性の向上が見込めます。
(4)経済産業省の補助金制度による成長加速
「Find me!」は経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の認定スクールです。受講料が最大70%還元される補助金制度は、受講者にとっての経済的ハードルを大きく引き下げ、集客面での強力な追い風となります。政策が継続する限り、市場拡大の恩恵を直接的に享受できるビジネスモデルです。
(5)70%取得(30%残留)のスキーム設計
100%取得ではなく70%取得とした点にも実務的な意図が読み取れます。創業者である松村氏に30%の株式を残すことで、経営へのコミットメントを維持し、いわゆる「アーンアウト的効果」(業績連動で残りの株式を追加取得する可能性)を期待する構造です。創業者が引き続き事業運営に深く関与することで、事業の継続性とサービス品質の維持が図られます。また、フライヤーにとっては、初期の資金負担を30%分抑制できるという財務面でのメリットもあります。
リスク要因
一方で、本件には以下のリスク要因が存在します。M&Aを検討されている実務家の皆さまには、こうした点も併せてご検討いただければと存じます。
(1)政策依存リスク
「Find me!」の集客の相当部分が、経済産業省のリスキリング補助金制度に依存している可能性があります。この制度は恒久的なものではなく、政策変更や予算削減により補助金が縮小・廃止された場合、受講者数および売上高に直接的な影響が及ぶ懸念があります。
(2)競争激化リスク
Webデザインスクール市場には、デジタルハリウッド、SHElikes、DMM WEBCAMP、CodeCampなど多数の競合が存在します。リスキリング補助金の対象スクールも増加しており、差別化が困難になれば、価格競争による収益性の低下が生じる可能性があります。
(3)のれんの減損リスク
本件で認識されるのれん約3億3,000万円は、フライヤー連結の総資産に対して相当な割合を占めます。Zealoxの業績が想定を下回った場合、のれんの減損テスト(日本基準では資産グループの減損兆候を判定し、回収可能価額が帳簿価額を下回る場合に損失を認識する手続き)において減損損失を計上するリスクがあります。上場後間もない企業にとって、大額の減損損失は株価や信用力への影響が大きいため、慎重な事後モニタリングが求められます。
(4)財務レバレッジリスク
本件の取得資金はコベナンツ付きの借入によって調達されています。連結純資産の維持(前年同期比75%以上)や経常損益の黒字維持(2期連続損失回避)が求められるなか、想定外の業績悪化が生じた場合、コベナンツ抵触による期限の利益喪失リスクがあります。上場後間もない時期に財務の柔軟性を制約する点には注意が必要です。
(5)キーマンリスク
Z ealoxは設立6年目、社員数約15名の少数精鋭企業です。サービスの品質や集客力が代表の松村氏を含む少数の中核メンバーに依存している可能性があり、キーパーソンの離脱は事業に大きな影響を与えかねません。30%の株式を残すスキーム設計はこのリスクを一定程度軽減するものですが、中長期的な組織体制の強化は不可欠です。
第4章|M&Aアドバイザリー手数料の目安
本件のような中小企業M&Aにおけるアドバイザリー手数料の目安を、レーマン方式に基づいて算出します。レーマン方式とは、M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)が報酬を算定する際に広く用いられる手数料体系です。取引金額に対して一定の料率を乗じて算出します。
なお、本件では株式取得価額3億5,000万円と取得関連費用等を含む総額3億9,700万円との差額が約4,700万円あります。この差額にはアドバイザリー費用やデューデリジェンス費用が含まれていると推定されますので、以下のレーマン方式の試算結果と実額とを比較してみましょう。
レーマン方式の一般的な料率表
| 取引金額の階層 | 料率 |
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超〜100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
本件への適用
株式取得価額3億5,000万円はすべて5億円以下の部分に該当します。
レーマン方式による手数料:3億5,000万円 × 5% = 1,750万円
ただし、多くのM&A仲介会社は最低手数料(ミニマムフィー)を設定しており、相場としては500万円〜2,500万円程度です。本件の規模感であれば、アドバイザリー手数料の実額は概ね1,500万円〜2,500万円程度に収まるものと推定されます。
本件の差額約4,700万円は、仮にアドバイザリー手数料が買い手・売り手双方から発生するケースや、デューデリジェンス費用(財務DD、法務DD、ビジネスDD等を含めると300万〜800万円程度が相場)、株式譲渡に伴う税務・法務関連費用等を含めた場合、概ね整合的な水準と考えられます。
まとめ|バリュエーション総括
| 分析手法 | 結果 | 市場水準との比較 |
| 年買法(年倍法) | 約17.3年分 | 標準的な2〜5年を大幅に超過 |
| EV/EBITDA | 約16.7倍 | 教育サービス業界平均8〜15倍を上回る |
| 連結営業利益インパクト (のれん10年償却時) | ▲約576万円/年 | 現状では連結営業利益にマイナス寄与 |
| 連結当期純利益インパクト (のれん10年償却時) | ▲約1,963万円/年 | フライヤー通期純利益の約20%に相当 |
| 推定アドバイザリー手数料 (レーマン方式) | 約1,500万〜2,500万円 | 標準的水準。差額4,700万円にはDD費用等も含む |
3つのアプローチいずれにおいても、本件の取得価額はZealoxの現在の収益力に対して高い水準にあります。これは、フライヤーがZealoxの「将来の成長性」と「シナジー効果」に対して積極的にプレミアムを支払ったことを意味しています。
本記事は、M&Aに関心をお持ちの経営者・経営企画・財務部門の皆さまに向けて、公開情報をもとにバリュエーション分析の考え方をご紹介する目的で執筆しております。特定の投資行動を推奨するものではなく、また記載内容の正確性・完全性を保証するものではございません。実際のM&Aにおいては、専門のアドバイザーにご相談のうえ、個別の事情に応じた判断をされることをお勧めいたします。



















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