2026年2月、ソーバルはソフトウェア開発およびSES(システムエンジニアリングサービス)事業を行う理創の全株式を取得し、子会社化すると発表しました。
開示されている数値は以下のとおりです。
- 売上高:3.4億円
- 営業利益:1,370万円
- 純資産:1.7億円
- 取得価額:約2.16億円
一見すると小規模な案件ですが、中小IT企業M&Aの典型的な価格形成ロジックが極めてよく表れている事例です。
本記事では以下の3つの切り口で検証します。
- 年買法(年数倍法)
- EV/EBITDA法
- のれん発生額を前提とした連結営業利益の上乗せ効果
1. まず前提として押さえるべき事実
理創の営業利益率は、
1,370万円 ÷ 3.4億円 ≒ 4.0%
SES主体の企業としては、平均~やや良好な水準です。
また、純資産が1.7億円あるため、財務基盤も比較的健全です。
この「純資産が厚い」点は、のちほど重要な意味を持ちます。
2. 年買法によるバリュエーション
年買法とは
中小企業M&Aの実務で最も多用される簡便法が年買法です。
年買法とは、企業価値を
企業価値 = 純資産 +(営業利益 × 年数)
で評価する方法です。
ここでいう「年数」は、
将来にわたり現在の営業利益水準が継続すると仮定した場合の回収年数を意味します。
実務上の目安は以下です。
- 成熟企業:3~5年
- 安定成長企業:5~7年
- 成長性・シナジー前提:7~10年
理創への当てはめ
開示数値は以下のとおりです。
- 純資産:1.7億円
- 営業利益:1,370万円
これを年買法に当てはめると、
年数5年の場合
1.7億円 +(1,370万円 × 5年)
= 1.7億円 + 0.685億円
= 約2.385億円
年数7年の場合
1.7億円 +(1,370万円 × 7年)
= 1.7億円 + 0.959億円
= 約2.659億円
実際の取得価額との比較
- 実際の取得価額:約2.16億円
したがって、
取得価額2.16億円
≒ 純資産1.7億円 + 営業利益 約3.4年分
という構造になります。
年買法から見た評価
営業利益の年数換算は、
0.46億円 ÷ 0.137億円 ≒ 約3.4年
となります。
これは、中小IT・SES企業M&Aの実務レンジである
「3~5年分」の下限寄りに位置します。
年買法による結論
本件は、
- 純資産はほぼ満額評価
- 利益部分は年買3~4年
という構造であり、
👉 年買法ベースでは割高感はなく、むしろ保守的な価格設定
と評価できます。
3. 純資産控除後の実質のれんを確認
取得価額:2.16億円
純資産:1.70億円
のれん ≒ 0.46億円(4,600万円)
つまり、
- 1.7億円 → 会社がもともと持っている資産
- 4,600万円 → 将来収益力への対価
という構造です。
のれん部分に対する年買倍率
4,600万円 ÷ 1,370万円 ≒ 3.4年
これは、
「のれん部分は年買3~4年」
という、中小IT企業M&Aの王道レンジに収まります。
年買法の結論
- 表面価格:割高に見える
- 実質のれんベース:妥当水準
👉 本件は**「純資産をほぼそのまま引き継ぎ、利益部分のみ年買で評価した取引」**と整理できます。
4. EV/EBITDA法による検証
EV/EBITDAとは
- EV(Enterprise Value):事業価値
- EBITDA:営業利益+減価償却費
企業のキャッシュ創出力に対する倍率で評価します。
EBITDAの推定
理創はSES主体で固定資産が軽いと考えられるため、
- EBITDA ≒ 営業利益 ≒ 1,370万円
と仮定します。
EVの考え方
EV = 株式価値 − 現預金 + 有利子負債
本件は詳細開示がないため、簡便的に
EV ≒ のれん相当額 ≒ 4,600万円
とみなします。
EV/EBITDA倍率
4,600万円 ÷ 1,370万円 ≒ 3.4倍
市場水準との比較
- 中小SES企業:3~6倍
- 上場IT企業:8~15倍
👉 低レンジ寄りの妥当水準
5. 連結PL上での営業利益上乗せ効果
① のれん償却額
日本基準では、のれんは20年以内で定額償却。
4,600万円 ÷ 10年償却と仮定
→ 年460万円
② 連結営業利益への影響
理創の営業利益:1,370万円
のれん償却:▲460万円
連結営業利益増分 ≒ 910万円
③ 投資回収年数
のれん:4,600万円
年間回収:910万円
4,600万円 ÷ 910万円 ≒ 約5.1年
含意
- ソーバルは5年前後で投資回収できる設計
- その後はフリーキャッシュフローが積み上がる
6. なぜこの取引が成立したのか
① 純資産が厚い
売却側にとって、
- 創業以来の内部留保が価格に反映されやすい
② 人材の囲い込み価値
SES企業M&Aの本質は、
「人材の獲得」
です。
理創のエンジニアがそのまま稼働する限り、利益は継続します。
③ クロスセル余地
ソーバル側の顧客基盤に対し、
- Web系
- インフラ系
- 運用系
の横展開が可能になります。
7. 売り手経営者にとっての示唆
- 利益が小さくても
- 純資産を積み上げていれば価格が出る
という好例です。
日頃から
- 不要資産の整理
- 利益の内部留保
を行うことで、出口価格は大きく変わります。
8. 買い手企業にとっての示唆
- 表面の「取得総額」だけで判断しない
- のれん部分の倍率を見る
これが重要です。
9. 危険ポイント(実務上の留意点)
- エンジニア離職率の事前把握
- 主要顧客への依存度
- SES契約の更新条件
- 労務リスク(偽装請負・残業代)
これらをDD(デューデリジェンス)で確認しないと、想定回収は崩れます。
10. 総合評価(結論)
| 観点 | 評価 |
|---|---|
| 年買法 | 実質妥当 |
| EV/EBITDA | 低レンジ |
| 投資回収 | 約5年 |



















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