MBOやPEファンドによるLBOファイナンスの最新動向

 本記事ではフリーハンロッキー社が開示しているLBOファイナンスの最新動向(2024年12月版)の開示資料について内容を説明いたします。

本記事は企業買収、PEファンド業界、LBOファイナンス、M&Aに興味がある方に向けた解説記事となります。

本開示資料について

MBO・PEファンド等による非公開化TOBに際して、どの程度レバレッジ(借入)を活用しているか、その構成(タームローン・メザニンのバランス)を可視化し、バリュエーション水準や資本構成の比較分析を行っています。

対象案件:

以下の条件を満たすTOBのみを抽出しています。

  • 子会社化や自己株買いなどを除外
  • TOB後に「議決権2/3超取得」=支配権を取得し、実質的な非公開化を伴う
  • 買付金額が100億円以上
  • データ出所:SPEEDA、Capital IQ、公開買付届出

補足:TOB後の100%取得手法(非公開化スキーム)

スクイーズアウト(Squeeze-out):少数株主を排除し、100%子会社化するための法的手続き群です。

【主要手法とその特徴】

手法要件特徴・注意点
① 特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条)議決権90%以上の取得最も一般的・簡便。裁判不要で一括取得可能(効力発生日に全株取得)。
② 合併(株式交付)議決権2/3超+合併契約少数株主に株式や現金を交付する形で排除。合併差止などのリスクあり。
③ 株式交換同上同じく少数株主を吸収会社へ移す形。PEファンドによるSPC→持株会社化で利用。
④ 株式併合(リバース・ストック・スプリット)2/3超の特別決議例えば「1,000株→1株」などで少数株主を端株扱い→買取請求を実行。訴訟リスクあり。
⑤ 全部取得条項付種類株式への転換定款変更上場企業ではあまり使われないが、MBOで設計される場合も。

用語解説

項目説明
EV(Enterprise Value)株式価値にネットデットを加算した企業価値。
EBITDA倍率(EV/EBITDA)EVをEBITDAで割ったもので、買収バリュエーションの目安。
TL・メザニン合計/EBITDA借入金合計がEBITDAの何倍か(レバレッジ倍率)。
メザニン調達額シニアより劣後順位の資金(高利率・返済後回し)。
タームローン合計銀行等からの一般的な融資。
C・その他株主ローン・自己資金等の調達源。
EBITDA(直近LTM)直近12ヶ月のEBITDA。
買収者PEファンドやMBO主体名。
公開買付届出書提出日TOB実施時期。

全体トレンド(2024年)

  • EV/EBITDAの平均:12.0x、中央値:10.6x
    → 高めの買収倍率であり、インフレ対応やプレミアムが意識された年。
  • TL・メザニン合計/EBITDAの平均:6.4x、中央値:6.1x
    → 高レバレッジが許容されている市場環境(低金利継続の余波も考慮)。
  • メザニン調達が大きく使われた案件
    • JSR(JICによる買収)で80,000百万円と最大規模
    • トランコム、ティーガイアも大規模メザニン調達
  • TL中心でメザニンを用いないケースも一部あり(I-PEXなど)

代表案件の読み解き例(抜粋)

事例①:マクロミル × CVC(2024/11/15)

項目金額
EV76,229百万円
EBITDA6,942百万円
EV/EBITDA11.0x
総DebtTL+MZ = 50,000 + 7,000 = 57,000百万円
Equity投入額(推計)76,229 – 57,000 = 約19,229百万円

事例②:JSR × JIC(2024/3/19)

項目金額
EV1,018,240百万円
EBITDA41,425百万円
EV/EBITDA24.6x(異常に高い)
DebtTL + MZ = 440,000 + 80,000 = 520,000百万円
Equity1,018,240 – 520,000 = 498,240百万円(かなり高額な公的資本投入)

補足解説:用語と資金構成

用語意味
タームローン(TL)返済期間が定まった一般的な融資。
メザニンファイナンス優先順位がシニアローンより下でリスクが高い分、利回りも高い(例:劣後ローン、優先株、転換社債)。
レバレッジド・バイアウト(LBO)TOB資金を借入でまかない、買収企業のキャッシュフローで返済していくモデル。

過去比較(2023年・2022年との比較)

年度EV/EBITDA平均レバレッジ倍率平均(TL+MZ)
2022年14.1x4.0x
2023年8.2x5.3x
2024年12.0x6.4x

2024年は再び買収倍率が上昇傾向にあり、かつ調達レバレッジも高まっている。それだけリスクを取ってでも案件が活発化しているとも言える。


結論

  • 上場企業の非公開化TOBでは、EBITDAの5~7倍程度を借入でファイナンスするのが平均的
  • 特にPEファンドが関与する場合は、メザニンファイナンスを活用してレバレッジを引き上げる傾向が強い
  • EV/EBITDA 10倍超は「高値掴み」とも言われがちだが、2024年はその水準が一般化している(シナジー効果、成長型投資が多いと考えられる。)
  • PEファンドごとに資本政策(TL:タームローンとMZ;メザニンの配分)に特色がある

プライマリーアドバイザリー株式会社

代表取締役 内野 哲

プライマリーアドバイザリー株式会社
代表取締役 内野哲
独立系のM&Aアドバイザリー事業、M&A仲介事業として企業・地域・社会がともに発展するための最善策を提案するNo.1 アドバイザリーグループを構築します。M&A業界で最も詳しい解説ブログを目指しています。

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