赤字・純資産マイナス企業でも1億円超で売れる理由
DX企業によるラーメン店買収事例から読み解く「中小企業M&Aバリュエーションの本質」。近年、中小企業M&Aの現場では、「黒字でなければ売れない」「純資産がマイナスなら価値はゼロ」という常識が、静かに崩れつつあります。
今回取り上げるのは、マーケティングDXを主力とする企業が、背脂系ラーメン店を運営する会社を1億5,300万円で買収した事例です。
対象会社は、
- 売上高:約4.2億円
- 営業利益:▲1,750万円
- 純資産:▲1,720万円
という、いわば赤字かつ債務超過に近い状態です。
それでも株式価値として約1.2億円が支払われました。本稿では、この取引を題材に、実務で使われる3つのバリュエーション手法を用いて、なぜこの価格が成立するのかを解説します。
なぜ「財務が悪い会社」でも売れるのか
結論から申し上げると、M&Aにおける価格は
過去の数字ではなく、将来のキャッシュフローに対して支払われる
という原則で決まります。
中小企業M&Aでは、
- 黒字か赤字か
- 純資産がプラスかマイナスか
は必要条件ではあっても十分条件ではありません。
重要なのは、
- 改善可能性
- 再現性
- 買い手とのシナジー
です。
今回のケースは、「飲食店」ではなく「マーケティングの実証フィールド」として評価された点に本質があります。
バリュエーション① 純資産法
■ 純資産法とは
会社の資産から負債を差し引いた純資産(時価ベース)を、そのまま企業価値とみなす方法です。
■ 本件への当てはめ
- 簿価純資産:▲17百万円
仮に資産を時価評価しても、大きな含み益がない限り、
純資産法の評価額:0円
となります。
■ それでも株式1.2億円が付いた理由
株式価値 120百万円
- 純資産 ▲17百万円
= のれん相当 約137百万円
この137百万円は、
- ブランド
- 立地
- レシピ
- オペレーション
- ファン層
といった帳簿に載らない無形の価値です。
純資産法は「下限値」であり、
M&A価格の決定打にはなりません。
バリュエーション② EV/EBITDA法
■ EV/EBITDA法とは
- EV(Enterprise Value):事業価値
- EBITDA:利払前・税引前・減価償却前利益
EV ÷ EBITDA = 何年分で回収できるかを示す指標です。
■ 本件の問題点
営業利益が赤字であるため、
EBITDA ≒ マイナス
→ 倍率が計算不能
つまり、そのままでは使えません。
■ 実務で行われる「正規化EBITDA」
赤字企業の場合、以下を調整します。
- 一時的な費用
- オーナー過大報酬
- 家族人件費
- 原価率の改善余地
これにより、
「改善後のEBITDA」
を作ります。
■ 重要な示唆
買い手は、
「今いくら赤字か」
ではなく、
「2年後にEBITDAをいくら作れるか」
を見ています。
バリュエーション③ 類似比較法
■ 類似比較法とは
類似する会社や取引事例の倍率を当てはめる方法です。
中小飲食では、
- EV/EBITDA
- EV/売上高
がよく使われます。
■ 本件の売上倍率
株式価値120百万円 ÷ 売上419百万円
= 約0.29倍
中小飲食M&Aでは、0.2~0.5倍レンジは珍しくありません。
SaaSのような高倍率ビジネスと比較してはいけません。
業種ごとの常識が異なります。
なぜDX企業がラーメン店を買うのか
本件は「飲食事業への参入」ではありません。
買っているのは、
- 自社マーケティングツールを試す実験場
- 成功事例のショーケース
- インバウンド集客モデル
です。
つまり、
ラーメン店 × マーケティング × データ
という事業モデルを買っています。
売り手が価格を上げるためにやるべきこと
① KPIの可視化
- 来店数
- 客単価
- 原価率
- 人件費率
- 回転率
- リピート率
② 労務リスクの解消
- 未払残業ゼロ
- 社保加入
- 就業規則整備
③ 契約関係の整理
- 賃貸借契約
- 商標・ブランド帰属
- 仕入契約



















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