製造業のM&A事例解説:技術承継機構<319A>、切削加工の堀越精機を子会社化

目次

結論(先出し・3行要約)

  • 本件は営業利益率約36%の高収益切削加工会社が、株式価値26.1億円で100%譲渡された事例です。
  • EV/EBITDA倍率は約5~6倍水準(推定)とみられ、技術力・人材・安定収益が評価された可能性があります。
  • 売り手視点では、事前のEBITDA調整とリスク整理が価格最大化の鍵になります。

案件概要

  • 買い手:技術承継機構
  • 売り手:堀越精機(東京都大田区)
  • スキーム:株式譲渡(100%取得)
  • 取得主体:NGTG17(技術承継機構の子会社)
  • 取得価額:26億1,000万円
  • 取得予定日:2026年1月16日

狙い(開示情報ベース)

  • 高度な切削加工技術をグループ内に取り込み
  • 製造業向け事業基盤の強化と競争力向上を図る
  • 製造業の技術・技能を次世代へつなぐ連続譲受戦略の一環

対象会社の財務状況(事実)

(2025年3月期)

項目金額
売上高11億8,000万円
営業利益4億3,100万円
営業利益率約36.5%
純資産10億5,000万円

※EBITDAは未開示のため、以下は推定を用います。


バリュエーションの考え方(売り手視点)

M&A価格は、単純に「利益×年数」で決まるものではありません。
実務では、以下の3要素のバランスで決まります。

  1. 収益力(どれだけ安定して稼げるか)
  2. リスク(価格を下げる要因がないか)
  3. 成長性・代替困難性(技術、人材、顧客)

本件は、

  • 高い利益率
  • 切削加工という技能・ノウハウ依存型事業
  • 製造業グループとのシナジー

が評価されたと考えられます。


バリュエーション算定(3手法)

① 純資産法

計算式
修正純資産 = 純資産 ± 資産・負債の時価調整

  • 純資産(事実):10.5億円
  • 想定調整項目(一般論)
    • 含み損益(不動産・遊休資産)
    • 役員退職慰労引当金
    • 繰延税金資産の回収可能性

想定レンジ(推定)
👉 10~12億円程度

※本件では純資産の約2.5倍で売却されており、
 純資産法だけでは説明できない価格です。


② EV/EBITDA法(本件の中核)

EBITDA(利払い・税金・減価償却前利益)の定義

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

EBITDA(推定)

  • 営業利益:4.31億円
  • 減価償却費:0.7~1.0億円(製造業平均からの仮定)

👉 EBITDA:5.0~5.3億円(推定)

マルチプル(倍率)の設定根拠(一般論)

  • 高収益(利益率30%超)
  • 技術・技能の蓄積
  • ただし
    • 中小企業規模
    • キーマン依存リスクあり

👉 EV/EBITDA:5~6倍

EVから株式価値へのブリッジ

  • EV:25~32億円
  • ネット有利子負債:小さいと仮定(詳細不明)

👉 株式価値:26.1億円(実績)と整合

感度分析

  • EBITDA ▲10% → 株式価値 ▲約2.5億円
  • マルチプル ▲1.0倍 → 株式価値 ▲約5億円

③ 類似比較法(上場・取引事例)

比較対象(一般論)

  • 上場:精密加工・金属加工系メーカー
  • 取引事例:年商5~20億円の製造業M&A

調整ポイント

  • 規模ディスカウント
  • 非上場流動性
  • 人材・顧客集中

👉 EV/EBITDA 4~7倍が現実的レンジ

本件はレンジの中央値付近と評価できます。


危険ポイント(価格を下げる論点)

売り手が見落としがちな重要ポイントです。

  • 偶発債務(環境・労務・過去取引)
  • 簿外債務(未払残業代、退職給付)
  • 売上・顧客集中
  • キーマン(社長・熟練工)依存
  • 技能の属人化(マニュアル未整備)
  • 設備更新リスク
  • 税務否認リスク(役員報酬・私的経費)

👉 一つでも顕在化すると、数億円単位で減額されます。


実務的な代替案(売り手が取れる打ち手)

  • 事前整理
    • 実態EBITDAの可視化
    • オーナー報酬・私的経費の調整
  • 人材・技術承継
    • キーマンの複線化
    • 技能の文書化
  • スキーム工夫
    • 株式譲渡 vs 事業譲渡
    • アーンアウト(条件付き対価)
  • DD対応
    • 早期にリスクを開示し価格調整幅を抑える


まとめ:売り手が次にやるべき3ステップ

  1. 自社の実態EBITDAを把握する
  2. 価格を下げるリスクを事前に洗い出す
  3. 製造業M&Aに強い専門家へ早めに相談する

免責

本記事は公開情報および一般的な実務経験に基づく一般的な解説です。
実際のM&A条件・税務・法務判断は、個別事情により大きく異なるため、必ず専門家へご相談ください。

プライマリーアドバイザリー株式会社
代表取締役 内野 哲

M&A仲介業、M&Aアドバイザリー。前職は東証プライム上場グループ会社の代表取締役社長として、DX・Webマーケティング支援事業を経営、経営実務としてのファイナンス経験を活かしてM&Aアドバイザリー事業を創業。並行して自己勘定投資会社も経営し、プロ経営者・プロ投資家の双方の視点で顧客の事業価値最大化を支援しています。

経済産業省中小企業庁M&A支援機関登録制度、日本経営財務研究学会(JFA:Japan Finance Association)在籍、東京商工会議所登録。M&Aシニアエキスパート資格保有。

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