オーケーウェブによるメディアリメイク社買収事例から学ぶ企業価値評価(バリュエーション)

 2025年10月7日に公表された、Q&Aコミュニティサイト運営の株式会社オーケーウェブ<3808>による、SNSオンラインスクール事業を手掛ける株式会社メディアリメイクの子会社化の案件は、まさにこの企業価値評価の妙を読み解く格好のケーススタディと言えるでしょう。

目次

オーケーウェブは何を期待し、メディアリメイク社を評価したのか

まず、本件の当事者について整理しましょう。

  • 買い手:株式会社オーケーウェブ
    • 日本最大級のQ&Aサイト「OKWAVE」を運営する東証グロース市場の上場企業。
    • 今回の買収により、既存のコミュニティ運営ノウハウと、メディアリメイク社が持つSNS運用人材の育成・スクール事業とのシナジーを創出し、新たな収益の柱を構築することを目指しています。
  • 売り手(対象会社):株式会社メディアリメイク
    • SNSとコーチングを組み合わせたハイブリッド型スクール事業や、インフルエンサープロモーション事業を展開する、設立(2022年8月)から間もないスタートアップ企業。
    • その事業内容と収益性は、M&A市場において高く評価される典型的なモデルです。

開示された財務情報(2025年8月期見込み)

勘定科目金額
売上高9,124万円
営業利益3,118万円
当期純利益2,180万円
純資産4,448万円

特筆すべきは、売上高営業利益率が約34.2% という驚異的な収益性の高さです。これは、少ない固定資産で事業を展開できるオンラインスクール事業の特性を如実に表しています。

この将来有望な企業を、オーケーウェブは取得価額6,800万円で完全子会社化しました。この価格はどのようにして導き出されたのでしょうか。次章から、具体的な評価手法を用いて分析を進めます。

評価手法①:純資産法(年買法)

企業価値評価には大きく分けて3つのアプローチ(コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチ)が存在しますが、まず最も基礎的で分かりやすいコストアプローチの代表格である純資産法から見ていきましょう。

純資産法とは?

純資産法は、対象会社の貸借対照表(B/S)に着目し、資産から負債を差し引いた純資産を株主価値と評価する手法です。企業の「解散価値」、つまり今事業を清算した場合に株主の元に残る価値を示すものと捉えることができます。

  • 計算式:株主価値 = 総資産 – 総負債 = 純資産

本件では、メディアリメイク社の純資産(見込み)は4,448万円です。しかし、取得価額は6,800万円であり、その差額(2,352万円)は何を意味するのでしょうか。

「のれん(営業権)」と「年買法」

M&Aの世界では、B/Sには表れない企業の「稼ぐ力」を評価に織り込む必要があります。例えば、ブランド力、技術力、顧客基盤、従業員のスキルといった無形資産がそれにあたります。これらを会計上の概念で**「のれん」(または営業権)**と呼びます。

中小企業のM&A実務で広く用いられるのが、この「のれん」を簡便的に評価する年買法(ねんばいほう)です。これは、純資産に営業利益の数年分を「のれん」として上乗せすることで、企業の将来性を加味する評価手法です。

  • 計算式:株主価値 = 純資産 + 営業利益 × N年
    • ※この「N年」は、事業の安定性や業界の慣習などによって変動し、一般的に3年~5年が目安とされますが、ケースバイケースです。

本案件への適用

取得価額6,800万円を、この年買法の計算式に当てはめて逆算してみましょう。

  • 6,800万円 = 4,448万円(純資産) + 3,118万円(営業利益) × N年
  • 2,352万円 = 3,118万円 × N年
  • N ≒ 0.75年

この結果が示すのは、オーケーウェブがメディアリメイク社の「のれん」を営業利益の約0.75年分と評価した、ということです。


評価手法②:マルチプル法 / DCF法

次に、他の企業や市場との比較から価値を測るマーケットアプローチと、将来の収益力から価値を測るインカムアプローチを見ていきます。これらは、特に成長企業を評価する際に不可欠な手法です。

EBITDAマルチプル法(マーケットアプローチ)

EBITDAマルチプル法は、類似する上場企業や過去のM&A取引において、企業価値(EV: Enterprise Value)がEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)の何倍で評価されているか(これを「倍率=マルチプル」と呼びます)を参考に、対象会社の企業価値を算出する手法です。

  • EBITDA ≒ 営業利益 + 減価償却費
    • ※金利水準や税率、減価償却方法といった会計方針の違いを排除し、企業の「本業での現金創出能力」を比較しやすくした指標です。
  • 企業価値(EV) = EBITDA × マルチプル(倍率)
  • 株主価値 = 企業価値(EV) – ネットデット(有利子負債 – 現預金)

メディアリメイク社はオンラインスクール事業が主体であり、大規模な設備投資を必要としないため、減価償却費は軽微であると想定されます。ここでは、「EBITDA ≒ 営業利益(3,118万円)」と仮定します。また、ネットデットもゼロと仮定すると、「企業価値≒株主価値」となります。

この仮定の下、本案件のマルチプルを逆算してみましょう。

  • 企業価値(EV)≒ 株主価値 = 6,800万円
  • マルチプル = 6,800万円 ÷ 3,118万円 ≒ 2.18倍

この2.18倍という数値は、IT・Webサービス系のスモールM&Aにおいては、比較的落ち着いた水準と言えます。同業界のM&Aでは、成長性への期待から5倍以上のマルチプルが付くことも珍しくありません。

このことから、オーケーウェブは、メディアリメイク社の現状の収益力を評価しつつも、過度に楽観的な成長期待を織り込むのではなく、堅実な買収価格を提示したと推察されます。

プライマリーアドバイザリー株式会社
代表取締役 内野 哲
 中小企業オーナー・経営者を主たる対象として、M&Aにおける会社売却・事業売却・事業承継に関する
企業価値算定(株価算定)・売却判断の是非・取引条件の妥当性検証を専門とする、
独立系M&A仲介業/アドバイザリーを経営。

 M&A仲介を前提とせず、
「現時点で売却すべきか否か」
「提示されている価格・条件は合理的か」
経営者にとって最も重要かつ不可逆な意思決定に特化したコンサルティングを提供。


▶ 経歴と専門領域
 前職では、東証プライム市場上場グループ会社において代表取締役社長を務め、
DX・Webマーケティング支援事業の成長戦略立案および実行を主導。
その過程で、買収側としてのM&A実務、企業価値評価、条件交渉、意思決定を一貫して経験。

 また大手上場企業に対する長期コンサルティングの一環として、M&A後のPMI(統合プロセス)に約10年弱関与し、
買収後に企業価値が毀損する実例・構造的要因に関与し支援。

 その実務経験を強みとして、「M&A仲介ありきでは意思決定を誤るケースが多い」という問題意識から
中立・第三者の立場で判断を支援するM&Aアドバイザリー事業を創業。


▶ 保有資格・所属団体等

 ・経済産業省中小企業庁M&A支援機関登録制度
 ・日本経営財務研究学会(JFA:Japan Finance Association)
 ・東京商工会議所
 ・一般社団法人金融財政事情研究会M&Aシニアエキスパート資格
 ・公益社団法人日本証券アナリスト協会プライマリープライベートバンカー資格

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