1. 本件M&Aの概要
エフ・コードは、AI(人工知能)を活用したマーケティング・コンテンツ制作等のスクール事業を展開するAI ONE(横浜市)の株式75%を取得し、子会社化します。取得価額は12億円、取得予定日は2026年2月24日です。
AI ONEの2025年12月期(見込み)における単体業績は、売上高2億7,500万円、営業利益2億4,600万円、純資産1億6,300万円、当期純利益1億5,800万円とされています。また、AI ONEは連結子会社を有しており、グループ全体では売上高約15億円、営業利益約4.9億円規模を想定しています。グループは取得対価と概ね同程度の負債を有しており、負債控除後の事業価値は概算で約30億円と説明されています。
2. 弱点指摘:数値構造上の注意点
2.1 営業利益率の異常値
単体ベースで売上高2.75億円に対し営業利益2.46億円、営業利益率約89%という数値は、一般的なスクール・教育事業のコスト構造からは大きく乖離しています。極めて効率的に運営されている事が伺えます。
2.2 75%取得・段階取得の構造
本件は100%買収ではなく75%取得であり、今後の業績進捗に応じて追加取得や対価調整が行われる可能性があります。したがって、初回の12億円のみで最終的な買収価格を評価するのは適切ではありません。
3. 重大リスク(危険ポイント)
危険ポイント①:利益の「質」
スクール事業では、広告投下から申込、役務提供、返金・解約までのプロセスにより、利益の見え方が大きく変わります。最低限、以下の点は精査が不可欠です。
- 受講料の売上認識方法(期間按分か一括計上か)
- 返金ポリシーと返金引当の妥当性
- 広告宣伝費の期間対応
- 講師・運営コスト、外注費、関連当事者取引の有無
危険ポイント②:のれん負担
日本基準では、買収により生じたのれんは原則として償却され、連結損益を継続的に押し下げます。高収益企業を買収しても、のれん償却により連結利益が伸びないケースは少なくありません。
危険ポイント③:契約条件そのものが価格
段階取得や対価調整条項がある場合、実質的な買収価格は契約条件により決まります。バリュエーション分析は、名目価格ではなく「将来条件込みの総投資額」を前提に行う必要があります。
4. 現実的な代替設計(実務視点)
- 買い手側:初回は支配権取得に留め、KPI達成に応じて追加取得
- 売り手側:成長の確度を示せる場合はアーンアウト型で価値最大化
- 双方:PMIにおいて、集客効率改善、講座開発の再利用、法人向け展開を数値目標化
5. バリュエーション分析(指定3手法)
5.1 ① 年買法
前提
- 純資産:1.63億円
- 調整後年間営業利益:2.8億円
- 回収年数:5年
企業価値(100%)
1.63億円 + 2.8億円 × 5年 = 15.63億円
取得対象75%の価値
15.63億円 × 75% = 11.72億円
評価
取得価額12億円は、年買法(5年回収)とほぼ整合しており、説明可能な水準です。
5.2 ② EV/EBITDA法
単体ベース(簡便)
- 想定EBITDA ≒ 営業利益 2.8億円
- 株式価値(100%換算):12億円 ÷ 75% = 16億円
EV/EBITDA ≒ 5.7倍
グループベース
- 事業価値:約30億円
- 営業利益:約4.9億円
EV/EBITDA ≒ 6.1倍
評価
成長型サービス事業としては極端な高値ではありませんが、前提利益の再現性が崩れると割高になります。
5.3 ③ 当期純利益 − のれん負担からの逆算
のれん額(概算)
- 取得価額:12億円
- 純資産相当(75%):約1.22億円
のれん:約10.8億円
のれん償却年数別影響
- 5年償却:年2.16億円
- 10年償却:年1.08億円
- 20年償却:年0.54億円
AI ONE単体の当期純利益は約1.58億円であり、5年償却の場合は利益を上回る償却負担が生じます。連結で利益成長を維持するには、少なくともこの償却額相当の営業利益上乗せが必要です。
6. アドバイザリー費用
本件では、アドバイザリー費用等として約0.51億円が見込まれています。初回の現金流出ベースでは、取得対価と合わせて約12.5億円が投資額の目安となります。
7. 法務・会計・税務の基本整理(補足)
- 株式取得:会社そのものを引き継ぐため、偶発債務・契約関係の確認が重要
- 連結決算:のれん償却が連結利益に影響
- 税務:株式取得は原則として即時損金化不可。会計との乖離は税効果の論点となる
8. 結論
本件買収価格は、調整後営業利益2.8億円を前提とした「5年回収モデル」として整合性があります。一方で、最大の論点は利益の質と、のれん償却を吸収できるPMIの実行力です。AIスクール単体の成長ではなく、エフ・コードの既存マーケティング支援と統合し、法人向けDX・人材育成領域まで拡張できるかが、最終的な投資成否を左右すると考えられます。



















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