アクセンチュアのアイデミー<5577>買収を徹底解剖ー買収価額64億円と56%プレミアム

 経営・ITコンサル大手のアクセンチュアが、AI教育を手掛けるアイデミーに対しTOB(公開買付)を実施します。買付価格は1株1,450円。公表前日終値931円に対して55.74%のプレミアムです。買付予定数は4,410,125株、下限は2,708,300株(所有割合66.1%)で、下限未達の場合は買付けを行いません。買付期間は2025年8月15日から9月29日、決済開始は10月6日の予定です。創業者は保有株式(44.1%)の応募に合意しており、成立時は上場廃止の見込みです。最大の買付代金は約63.95億円となります。

 本稿は、公開情報と一般的な評価理論に基づき、①案件概要②バリュエーション手法の比較③買収金額に内包されたシナジーの逆算を示します。


案件概要

買付者:アクセンチュア

対象:アイデミー(東証グロース)。成立時は上場廃止の見込み

価格:1株1,450円(前日終値931円比+55.74%)

数量:予定4,410,125株、下限2,708,300株(66.1%)。下限未達は不成立

期間:2025/8/15–9/29(30営業日)

決済:2025/10/6開始

公開買付代理人:三菱UFJモルガン・スタンレー証券

最大買付代金:約63.95億円

売上・利益(直近期・参考):売上20.56億円、営業利益0.43億円、EBITDA1.60億円、当期純損益▲0.08億円

財務ポジション(参考):現金等13.78億円、負債合計8.20億円、純資産12.42億円

発行済株式数(参考):3,996,850株(自己株なし・時点ベース)

以降の評価は、上記の公開数値を素直に用いた概算です。有利子負債・リース債務の詳細やストックオプションの希薄化は未反映である点にご留意ください。


バリュエーション手法の解説と当てはめ

 評価は「スタンドアロン(単体)」と「統合後(シナジー含む)」の二層で考えると筋が通ります。本件は投資・成長局面にあるため、DCF中心での検討が最も整合的です。年買法・倍率法・純資産法はクロスチェックとして併用します。

1.DCF法(WACCベース)

 将来のFCFを加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて企業価値を算出します。成長投資の回収可能性資本コストを一貫して扱えるため、本件のような「教育×AI×SI」型の拡大型モデルに適合します。

主要パラメータ

直近期の起点:売上20.56億円、EBITDA1.60億円

近未来の投資先行を許容し、中期(例:2–4年後)にEBITDA率12〜15%へ漸近するシナリオを仮置き

WACC=9〜12%、永続成長率g=1〜2%(小型×グロース×国内の保守レンジ)

この条件の中位で割引すると、企業価値は概ね40〜50億円台に収まり得ます。後述の概算EV(約44億円)と整合し、TOB水準はDCF中位シナリオで妥当と解釈できます。逆に、売上CAGRや粗利率の改善が遅れると割高化しやすい点は明確です。

2.EBITDA倍率法(EV/EBITDA)

考え方:企業価値(EV)をEBITDAで割る相対評価。資本構成の影響を中立化でき、赤字期でも使いやすいが、投資期の一時費用ノーマライズの補正が必須です。
当てはめ(概算)

株式価値(全株ベース)=3,996,850株×1,450円≒57.95億円

EV(概算)=株式価値57.95億円−現金等13.78億円≒44.17億円(有利子負債の詳細不明につきネットキャッシュ前提の簡便値)

EV/EBITDA ≒ 44.17 / 1.60 = 27.6

評価:27.6倍は、前方ノーマライズEBITDAを用いない現状倍率としては高い水準です。市場コンプ(教育×SaaS×SI近傍)を12〜15倍レンジと仮置きすると、TOB水準を正当化するには前方ノーマライズドEBITDAが約2.95〜3.68億円必要となります。これは現状1.60億円に対して+1.35〜2.08億円の上積みを意味します。


買収金額とスタンドアロン価値の差分

 倍率法の逆算が示すポイントは明快です。TOBが前提とする持続可能な“前方”EBITDAは約3億円級であり、現状から+1.35〜2.08億円の上積みが必要です。EBITDA率12〜15%で換算すると、必要な追加売上は約9〜17億円(= 1.35〜2.08億円 ÷ 15〜12%)。

直近期売上20.56億円に対し、統合後30〜38億円規模が一つの目安になります(売上増と体質改善の組み合わせ)。

シナジーの内訳(実装論)

レベニューシナジー

大企業アカウントへ「人材育成(リスキリング)→AI実装→運用定着」を一気通貫で提案するクロスセル

PoC止まりの案件を、研修と実装を束ねたパッケージで本番化率を引き上げる設計

既存の専門領域(例:化学・素材など)で縦展開→横展開を促進

コスト/キャパシティシナジー

デリバリーの標準化、リソースプール化により稼働率と粗利率を同時に改善

採用・育成・ツールの共有によるスケール効果の刈り取り

開発・運用の部材調達やプラットフォーム利用のボリュームディスカウント

財務シナジー

上場維持費用・IRコストの削減

価格決定力の向上による単価と回収条件の改善

重要なのは、「売上だけを増やす」のではなく、受注総額・ARPA・粗利率・稼働率・継続率といったKPIを同時最適化し、3億円級の前方EBITDAを確度高く刈り取る運用計画です。


まとめ:投資仮説と執行の勘所

価格の意味:1,450円は、DCF中位シナリオと整合する水準です。倍率法の現状値(EV/EBITDA 27.6倍)は高く見えますが、“前方3億円級EBITDA”の達成を置けば相場レンジ(12〜15倍)に収まります。

―この記事の監修者―

プライマリーアドバイザリー株式会社

代表取締役 内野 哲

一般社団法人 金融財政事情研究会 M&Aシニアエキスパート/東証プライム上場企業グループ会社代表取締役社長を経てM&Aアドバイザリー事業創業/自己勘定投資会社にて投資業/企業価値評価、M&Aスキーム設計に精通

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