株式交付スキーム事例:新都ホールディングスによる栄新商事の子会社化と株価算定の論点

目次

1. 取引概要

 新都ホールディングス<2776>は、2025年11月20日付で金属リサイクル業の栄新商事(京都府宇治市)の株式約51%を取得し、子会社化を行います。取得方法は株式交付であり、交付比率は「新都HD株式1:栄新商事株式1071.5」とされています。栄新商事は2025年3月期において、売上高181億円、営業利益2億6200万円、純資産3億1700万円を計上しています。

2. 企業価値評価(バリュエーション)の枠組みM&Aにおける株価算定

  • DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
    将来のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に直す手法。成長性を反映できるが、前提条件次第で評価が大きく変動する。
  • 市場株価法
    対象会社の株式が上場している場合に、市場株価を基準とする。今回は非上場会社であるため直接適用は不可。
  • マルチプル法(EV/EBITDA倍率法など)
    同業他社や取引事例を基準に倍率を適用する。シンプルかつ市場実務で広く利用。

3. 本件における算定の着眼点

(1) 営業利益水準とEBITDA倍率

栄新商事の営業利益は約2.62億円。金属リサイクル業界の取引事例を参照すると、EV/EBITDA倍率は概ね5~8倍で推移しています。単純計算で事業価値は約13~21億円規模が射程となります。

(2) 純資産価値の位置づけ

栄新商事の純資産は3.17億円。事業価値に対し小規模ですが、資産内容(在庫金属や設備価値)を考慮すると、清算価値も一定の下支え要因となります。

(3) 取得対価と株式交付比率

交付比率「1:1071.5」は一見大きな数字ですが、これは新都HDの株式単位と栄新商事株式単位の差異を反映しているため、実質的な株式価値比率を検証する必要があります。ここで重要なのは「希薄化率」と「対価総額」です。新都HD株価を基準に、交付予定株数を掛け合わせることで、取引価値の妥当性が測定可能です。


4. 戦略的シナジー評価

M&Aの価格は単独価値+シナジー価値として評価されます。栄新商事の場合、以下が主要なシナジーです。

  • 仕入れ網の拡充:関西圏での非鉄金属調達チャネルが拡大。
  • 販売先の強化:大手電線メーカーや精錬メーカーへの供給ネットワークを即時獲得。
  • 不動産事業との補完:スクラップ置き場や物流施設などで不動産活用余地。

シナジーを定量化する際は、追加売上・原価低減効果をDCFに上乗せし、M&Aプレミアムの根拠を説明する必要があります。


5. 株式交付と株式交換の制度比較

項目株式交付株式交換
根拠法令会社法第2編第2章(2021年改正で新設)会社法第2編第2章第5節
主目的他社の株式を部分取得して子会社化(51%取得など可)他社を完全子会社化(100%)
対価原則「親会社の株式」だが、現金併用も一部可原則「親会社の株式」のみ
取得対象株主特定株主のみから取得可能全株主から一括取得
支配権の程度過半数取得や3分の2取得など柔軟に設計可能必ず100%支配
株主総会の承認原則、親会社のみ必要(特別決議)親会社と子会社両方の株主総会で承認必要
実務上の利用シーン中小企業のオーナー株式を一部取得して子会社化する場合上場子会社の完全子会社化やグループ再編
節税・会計処理適格要件を満たせば譲渡益課税の繰延可。のれん償却あり同様に適格要件あり。のれん計上・償却あり

プライマリーアドバイザリー株式会社
代表取締役 内野 哲

M&A仲介業、M&Aアドバイザリー。前職は東証プライム上場グループ会社の代表取締役社長として、DX・Webマーケティング支援事業を経営、経営実務としてのファイナンス経験を活かしてM&Aアドバイザリー事業を創業。並行して自己勘定投資会社も経営し、プロ経営者・プロ投資家の双方の視点で顧客の事業価値最大化を支援しています。

経済産業省中小企業庁M&A支援機関登録制度、日本経営財務研究学会(JFA:Japan Finance Association)在籍、東京商工会議所登録。M&Aシニアエキスパート資格保有。

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